
春燈賞(抄)25句 自選
あらたまの吉き日好きこと佳きひとと
褒められていよよ目を伏すかじけ猫
ふたつみつ紅梅ひらく日和かな
走り根を踏む杣道や実朝忌
春めくと古都に小さき蜂蜜屋
のどけしや片方曲がる鬼の角
春惜しむひと日近江の人となり
母と見る昭和の映画うららけし
菜飯田楽帰国の夫に調ふる
春の夜やひとり広ぐる世界地図
石楠花のほほけそめたる人出かな
肌裂きつ古木となんぬ椨若葉
いをの恋蓮の浮葉を乱しけり
切通抜けて此岸の薄暑かな
炎天や我が身を脱けてゆく何か
蛇の尾の暫し残れる葉群かな
鐘涼し階のぼるわらぢ虫
浜木綿や指の間に残る砂
家持たずしがらみ持たずなめくぢり
明易や古事記の神の人臭き
秋の日や娘と並ぶ婚約者
穭田に山の陰りの被さり来
訥々と花の名言へり花野守
ふたり目も嫁いでゆきぬ鰯雲
綿虫や齢重ぬる御神木